「はい。山野スーパーの近くまで。」

 山野スーパーは私のアパート近くのスーパーだ。
 ここから帰るのなら倉林支社長のマンションの方が遥かに近い。

「倉林支社長から帰ったらいいですよ?」

 だってふわふわして気分もいいし。

 酔った勢いで前みたいに気負わないで話せるのがなんだか嬉しいし。

「何を言ってるんだい。
 私を先になんて……そのまま連れ帰ってもいいと言うのなら。
 それとも試されてるのかな?」

 苦笑する倉林支社長がすごいことを口走っていても私にはまったくもって届かなかった。

「こんな風に正体も怪しい娘を後回しになんて出来ない相談だよ。」

 倉林支社長はいつでも私を甘やかす。

 陽真はいっつも平気で先に帰って行きますけどね。

 それにどんな飲み会も。
 私のことを心配する男性なんていなくて。
 私もそういう人たちの前では何故だかしっかりしていられた。

 こんなにふにゃふにゃになるのは倉林支社長の前だけだ。

 倉林支社長も多少なりとも酔っているのかもしれない。
 いつもより彼を近く感じて実際に距離も近かった。

 肩が触れて、そのまま寄り添ってタクシーに揺られた。