「西村さんはこれ以上いただかない方がいい。
 あまり強くないのでしょう?」

 優しい口調の指摘に不覚にもドキリとした。
 彼の言動に動揺しないって何度も心に決めたのに。

 見た目は酒豪そうだと言われる私は実はあまりお酒が強くなかった。
 そのことをいち早く見抜いてしまう彼が恨めしかった。

 対して倉林支社長はお酒に強いのか、他にも何種類かのお酒を試飲して野々山さんと意見を交換していた。

 不思議だなぁ。
 弱いんでしょ?と言われると気が抜けるのか本当にお酒のまわりが早いや。

 いい気分になって私はうとうと夢の中へ行ったり来たりしていた。

「本当に西村さんは放っておけない人だね。」

 苦笑する彼に腕を引かれてふわふわ夢見心地で歩いていた。
 彼の温もりを感じていい夢だなぁなんて呑気に思っていた。

「倉林支社長がいちいち私のことを見抜くからでーす。」

「全く。これだから君が真っさらな状態だって……まぁだからこそ真っさらだったのかな?」

 意味ありげに言う倉林支社長の真意が酔った私には分からなかった。

 いつの間にかタクシーに乗っていて酒蔵を後にしていた。