地元を流れるシンボル的な山野川。
 その伏流水で作られる日本酒は深みのあるまろやかな甘さを持つ名酒として名高かった。

 最初こそ工業排水の件で話も聞いてもらえなかった酒蔵の人も倉林支社長の誠意が伝わって今では協力してくれるまでに姿勢を軟化させていた。

「まずは飲み比べてみてください。
 こちらは日本酒としては最も軽快な香味で、すっきりとした飲みやすさが特徴です。
 普通酒や本醸造が該当し、淡麗辛口なタイプです。
 キリッとした辛口が料理に合う。」

 試飲すると聞いていた今日はタクシーで来させてもらって倉林支社長と共に飲み比べていた。

「こちらは純米大吟醸。
 濃醇旨口と言われます。
 濃厚で芳醇と言えばいいかな。
 甘い果実や花のようなフルーティな香りが特徴の日本酒を指します。」

「美味しい……。」

 勧めてくれた野々山さんが微笑んだ。

「でしょう?
 口当たりがまろやかで飲みやすいので飲み過ぎ注意です。」

 確かに少量とは言え飲ませてもらって体がふわふわする。