黙っている私を見て何か勘違いしたような松嶋工場長がため息をついた。

「やっぱりなんかあったのか。」

「あ、いえ。そういうわけじゃ。」

 きっと彼サイドでは何も変化はないはず。
 部下が残業をしなくなったのだって、彼にとって喜ばしいことだろうし。

 そう思っていた私に松嶋工場長が思わぬことを口にした。

「倉が欲しいって声を上げること自体が稀だ。」

 なんでそれを知ってるのかと目を丸くして松嶋工場長を見るとニヤリと笑われた。

「なんだ。やっぱり何か言われたのか。」

 楽しそうに言う松嶋工場長にやられた……と彼の悪戯好きな性格を忘れていた自分を呪った。

「カマかけたんですか?」

「いや。あいつからだだ漏れ。」

「だだ漏れ?何が……。」

「西村のことどう思ってるのかってこと。
 俺と一緒の時に見惚れてたって西村が冗談言ったろ。
 あの時、後から大変だったんだからな。」

 心底迷惑そうな松嶋工場長に前のめりになって質問した。

「何がですか?」

「俺と西村が人に言えない関係じゃないのかって。
 俺が愛妻家だって倉は呆れ返るくらい知ってるのにな。」

 松嶋工場長はクククッと笑う。

「そんな、だって……。」

 その時は私にも似たようなことを言われて、ちゃんと否定したのに……。