駅まで宿泊先のホテルへタクシーで帰る陽真と同じタクシーに乗り、陽真を送り届けてから私のアパートに帰る。

 陽真は実家には次の日に寄ったり寄らなかったりらしい。
 戻った初日はだいたい私と飲み明かすから遅くに実家に戻って口煩く言われたくないっていうのも多少はあるみたいだった。

 だからこれは陽真が地元に帰った時のいつものルートだ。

 それなのに……。

 駅前でホテル。
 ホテルって……。なんだか生々しい。

 前まではそんなこと思わなかったのに、倉林支社長のせいだ。

「花音、俺たちやり直さない?」

 意識が別に飛んでいた私に陽真は思いもよらない言葉をかけた。

「え……。」

 マジマジと陽真を見てみてもふざけているようには見えない。

「明日、小綺麗になってから花でも買って告白しようって思ってたんだけど、今の花音はどこかへ行っちゃいそうで。
 捕まえなきゃって思ったんだ。」

 嫌だ。
 倉林支社長と同じこと言わないで。

 私の馬鹿!
 こんな時にまで、どうして倉林支社長を思い出すの?

「今夜、一緒に泊まらない?」

「そ、それって……。」

 一度たりとも陽真とそういう雰囲気になったことはない。

 陽真自身も今はお酒の勢いを借りてって感じみたいだ。

 早く捨ててしまえばいいって思いつつも、実際は夢見ていた初めての夜。
 こんな形で……。

 いいのかな。
 目の前の手を握って。