次の日の午後。
 会議から戻ると職場が騒がしかった。

「花音ちゃん。今日は、その……。」

 松山さんが目を白黒させていた。

「え?どうしたんですか?」

 私達の会話は騒ぎの中心にいる都築くんの声にかき消された。

「どこでお知り合いに?」

 都築くんが質問した人は可愛らしい女性だった。
 彼女は花がほころぶように笑った。

「親同士が決めたんですよ。」

「そうなんですか。」

「親が決めた婚約者ですけれど、それでも私は崇仁さんを愛していますから。」

 おやがきめたこんやくしゃ。
 たかひろさんをあいしていますから……。

 聞こえてきた言葉を上手く飲み込めなくて彼女を呆然と眺めた。

 お似合い。だ。

 彼女は都築くんや他にもいる周りの人達に質問攻めにあっても丁寧にそれらに受け答えしていた。

 田舎が嫌じゃないですか?と聞かれれば、自然がたくさんで素晴らしいと褒めた。

 とてもいい娘だと感心するほど素敵な女性だった。
 花が笑うように笑う彼女を見ていると心にインクを落とされたみたいだった。

 真っ白だった心に一滴の黒いインク。
 それは急速に広まって心が全て真っ黒に染まっていくような……。