知られなきゃいいと思っていた。
 彼はきっと成り行きで大人の関係で。

 私は彼とならいいやって思ってしまった。
 図らずも守り続けてきた貞操なんて私には不必要だった。

 知られずに彼と一夜の過ちで構わない。
 そんな思いが交錯して、何より遊んでそうだなんて言われる私が初めてだなんて言い出せるわけがなかった。

「つらかったね。怖かったよね。
 ごめん。こっちへおいで。」

 子どもを甘やかすみたいな声を掛けられてあられもない姿から解放されると抱き寄せられた。

 そして彼の腕の中で手を握られた。
 知らぬ間に冷たくなっていた指先に柔らかなキスをされた。

「もうしないんですか?」

 薄く目を開けた彼が困ったような顔をした。

「……酷な質問をするんだね。」

「やっぱり、初めての女って面倒くさいですよね。
 しかもこんな見た目は遊んでそうなのに…。」

 唇が優しい感触に邪魔されて言葉を続けられなかった。

 彼のキスはキスしたところから甘く痺れて目眩がする。

 恋愛初心者の私には何もかもが………。

「ごめん。余裕なくて。
 花音がどこかへ行ってしまいそうな気がして捕まえなきゃって思ったんだ。
 いや。言い訳だ。ごめん。
 こんな大事なことを気遣ってあげられないなんて。」

「それは……その………。」

 いいですよ。は、何か違う。
 大丈夫です。は、もっと違う。

 なんて返していいのか分からなくて私は彼の胸に顔をうずめた。