電話を切って、懐かしい気持ちに浸っていると控えめに倉林支社長から言われた。

「ごめん。
 車内で電話をすると全部聞こえてしまうようだ。」

「え、あ、こちらこそすみません。」

 上司といるからって切った方が良かったのかな。
 つい倉林支社長の言葉に甘えてしまったけど。

「いや……。
 余計なお世話だと思うのだが、今のは彼から?」

「彼……というか、その、幼馴染というか。」

 私の濁した言葉に倉林支社長は確信めいたように言った。

「元彼?」

「まぁ、そういう感じです。
 泊めてなんて、冗談で言ってるんですよ?」

 なんの言い訳……。

 陽真とは付き合って別れた。
 正確には友達に戻ったのだ。

 そして30までお互いに一人だったら結婚しようかってそんなしょうもない約束をしている。

「そ、冗談……ね。」

 今回は松嶋工場長の時のように盛大な勘違いをしてるような心配をされたりはしなかった。

 安堵するような、けれど少しだけ胸がチクッと痛くなって、何に傷ついたっていうのよ。と、自分自身を嘲笑った。

 元彼と電話をしてみたって、元彼と戯れ合うような会話をしてみたって、未だに元彼と会っていたって。

 そして例え30になって陽真と結婚したとしても。

 倉林支社長には関係ないことなのだから。