とはいえ、ずっと焦がれていた相手との同居生活は、やはり刺激が強すぎる。

華乃が作るメシは期待以上に美味いし、相変わらず笑顔はかわいいし、からかうとすぐに赤くなるのもたまらないし、無自覚で爆弾を投下してくるし。

ゆうべの、パジャマ代わりらしいワンピースの裾から覗くやわらかそうな太ももには参った。

ズボンを脱衣場に持っていくのを忘れたらしいが、それにしたって無防備すぎる。

できる限り平静を装って彼女に忠告したあと、初日からこんな感じでこの先大丈夫なんだろうかと、ひとりきりになった寝室で思わず頭を抱えた。

やはり、寝る場所を別にしたのは正解だったようだ。

当初深く考えず、同じ部屋で眠るつもりでいた自分がおそろしい。
すぐ隣に彼女の寝顔があったりしたら、理性なんていくらも保たず襲ってしまいそうだ。

せっかく互いに名前で呼ぶようになって、以前までより少しだけ親密度が増したのに。
ここで下手な行動を起こして軽蔑されるのは、なんとしても避けなければならない。

今朝顔を合わせたとき、華乃はゆうべの俺の忠告を意識していたようで、かなり挙動不審になっていた。



『そこまで警戒しなくても。ちゃんと、時と場合は選ぶよ』



思わずそう言ってしまったが、あとから考えればこれはこれで危うい発言だったかもしれない。

とはいえ他に言いようが思いつかないし、今さら訂正もおかしいので、そのままにしている。

それに、これを伝えたときの華乃が顔を赤くして目を泳がせながら小さくうなずいたのがかわいすぎて。
思わず手を伸ばしそうになる己の衝動を抑えつけるので、そのときは精いっぱいだったのだ。

家を出る間際のお見送りも、やばかった。

『ケガには気をつけて』って。『がんばってね』って。
じっと目を見つめながら好きな女にこんな健気なことを言われれば、抱きしめてキスしたいと思うのが普通だろ。

心を無にするために脳内で素数を数えてなんとかやり過ごした今朝の自分、よくやったと褒めてやりたい。