『ハンカチが……風で、飛ばされちゃって』

『ハンカチ?』



その視線につられるように顔を上げる。

たしかに、満開の花と枝の間に水色の布のようなものが見えた。

視線を彼女へと戻すと、寂しそうな悲しげな、切ない表情を浮かべている。



『お父さんが……くれたものだったから。なんとか、取り戻したくて』



消え入りそうな声でそんなことを話す彼女に、こちらの方が沈痛な想いに駆られた。

きっとあのハンカチは、このコにとって大切なものなのだろう。

たかがハンカチに、なんてセリフは、口が裂けても言おうと思えなかった。



『ちょっと待って』



言ってから辺りを見回す。

桜の木のそばには、どこからか見つけて持ってきたのかあまり高くはない脚立がある。
彼女は、これを使って木の上に登ったのだろう。

なんて無茶を……と思わないでもないが、本人には言わないでおいた。

ハンカチがある場所は、身長が180cm以上ある俺でもジャンプくらいじゃ届かなさそうだ。

けれど俺だって、ここで無理してケガをするわけにもいかない。

と、すれば。