『な──、』



桜の木から、女の子が降ってきた。

予想だにしないことが目の前で起こって、呆然と固まってしまう。

視線の先にいる女の子──この学校の制服であるセーラー服を身にまとった長い髪の彼女は、地面に尻もちをついて『いたた』とつぶやいている。

俺はようやくハッとし、慌てて彼女に近づいた。



『大丈夫か?!』



あまり高い位置ではなかった気がするが、受け身も取らず地面に落下したのだ。
どこかケガでもしたんじゃないかと、まずはそう声をかけた。

こちらの声に反応し、女の子が弾けるように顔を上げる。

その一瞬、俺の心臓が大きく脈を打った。


痛みのせいかうるんだふたつの瞳が、俺を捉える。

左目尻にぽつんとあるホクロが印象的だった。
勢いよく頭を動かした反動で、少し茶色がかった黒髪から桜の花びらが舞い落ちる。

朝の光の中、髪の毛も制服も、どこもかしこも桜まみれにした彼女の姿に、どうしようもなく心が揺さぶられた。


『あ、大丈夫、です……』



俺を見上げる彼女が、恥ずかしそうに笑って返事をする。

その表情にすら、胸の奥が疼いた。

右手を差し出し、座り込んだままの彼女の手を引いて立ち上がらせる。

重ねた手のひらの小ささにまず驚き、想像以上に軽々と身体を引き起こせたことにも驚いた。



『……なんで、木の上に?』



とりあえず、1番気になっていたことを尋ねてみる。

彼女がサッと表情を暗くして、傍らの桜の木を見上げた。