長い付き合いで。お互いいい年齢で。

はっきりとした言葉はなかったけれど、なんとなく、自然とこのまま結婚するんだろうなという予感みたいなものはあったし、実際彼にも「一緒に住む家はこのあたりがいいよなー」なんて、将来を匂わせる発言も普通にされていた。

だけど。
視界に映る、見慣れたはずでまったく知らない顔に見える彼の姿をぼんやり眺めながら──もうこの先、彼と描いた様々な未来が果たされないであろうことを、私は静かに悟ったのだ。

一葉ちゃんは「今問い詰めるべき!!」と憤っていたけれど、その場で彼らに突撃することはできなかった。

呆然としながら一葉ちゃんと別れ、ひとり暮らしをしているアパートにいつの間にか帰ってきていて。
晩ごはんの用意も乾いた洗濯物を畳むのも、何も手につかなかった。

それから数日後。
約束して久しぶりに行った彼の家で、私は先日見たことをすべて彼に話した。

一度は誤魔化そうとしていた彼は、けれど何もかも覚悟を決めた私の表情を見て、深いため息を吐いたあと語り始めた。

私とは、本当に結婚にするつもりでいたこと。

あの女の子は1年ほど前から通い始めたジムで知り合ったコで、自分には彼女がいるからと伝えても、懲りずにアプローチされていたこと。

……いずれ、結婚するつもりなら。せめてその前に自分と恋人のような1日を過ごして欲しいと言われ、あの日限りのつもりで、了承したこと。



『ほんと、アレきりだよ。だからさ、華乃……』



甘えるように私を抱きしめようとしてきた彼の腕を、私はやんわりと突き放す。