「あたたかくなって、ここにある桜が全部満開になったら。このお庭、すっごく綺麗だろうなあ」

「咲く頃、見に来ればいい。一緒に」



あっさりと耳に届いたその言葉に、今度ははたと動きを止めた。

聞き間違いじゃなければ──さっき『一緒に』って、聞こえた?

誰と……誰の、ことを──……?

お座敷でまともに合っていなかった私たちの視線が、今ははっきりと交わっている。

心臓が尋常じゃないくらい、激しく音をたてていた。



「花倉、俺と結婚してくれ。俺は今日、これを言うつもりでここに来た」

「え……え? けっこん、て」



驚愕。唖然。青天の霹靂。

このときの私の心情は、いったいどんな言葉で表すことが的確だったのか。

しっかりと飛び石を踏みしめているはずなのに、足もとがぐらぐら揺れているような錯覚がする。

人間、受け止めきれない現実に直面すると、こんなふうになるのか。
真っ白になった頭の片隅のそのまた隅の方で、微かに残った理性が分析する。

驚きのあまりポカンと間抜けな表情をしているだろう私を真剣な眼差しで見下ろしながら、先ほどトンデモ発言をした柊くんはさらに続けた。



「花倉は? おまえは、俺と結婚してもいいと思ったからこの見合いを受けたのか?」

「あ……私、は」



柊くんと、結婚なんて。そんなの、考えてすらいなかった。

お見合いとは本来それを前提として行うものなのに、変な話だ。
けれど私は、本当にこれっぽっちも、柊くんと一緒になれる未来を想像できなかったのだ。

だって、そうでしょう? 私が、柊くんの隣に並ぶなんておこがましい。

今目の前にいる、外見から普通とは違う魅力的な彼は、プロ野球界の第一線で活躍している人気選手で。

それに比べて、私は──……。