柊くんって、い、意地悪とか、言うんだ。
あれ? 高校生の頃も、こんな感じだったっけ?

過ぎた記憶は月日が経つにつれて美化されるというけれど、たぶん私もそんな感じだ。
あの頃の柊くんのことは、私の中でとても大切で綺麗な思い出として残っている。

といっても、当時の彼と私は特別親しかったというわけではなくて。
単なるクラスメイトとして、その範囲を出ない程度の会話をしたり、席が隣だった頃一緒に日直をしたことがあったくらいだ。

けれど私は、あの頃たしかに、彼に恋をしていた。

まるで映画のワンシーンのような、大げさでドラマチックなキッカケがあったわけじゃない。

それでも17歳の花倉華乃の心を揺さぶるには十分な出来事を経て、17歳の彼は私をいとも簡単に恋へと落とした。

あれから、もう10年以上。
柊くんへの恋心は、もうとっくに過去のものになっていたと思っていたのに……今、少し本人と話しただけでまるで時間が巻き戻ったかと錯覚してしまうほど、当時と同じように胸を高鳴らせてしまっている自分がいる。

これは……まずいなあ。

こんなんじゃ、私──初恋にケリをつけるどころか、今まで以上に彼のことを、忘れられなくなってしまいそうだ。



「……柊くんは。おっきく、なったねぇ」



自分のものよりずいぶん高い位置に並ぶ肩を見上げ、私は無意識にそんなことを口走っていた。

そこで柊くんが、一瞬の間のあと小さく噴き出す。



「ふ、花倉……なんかそれ、久々に会った親戚の人みたいなセリフ」

「え、あれ? ご、ごめん……だってでも、本当のことでしょ?」



言いながら、彼との身長差を確かめるように右手で作った庇を自分の頭のてっぺんと同じ高さで前後に揺らした。

高校生のときより、間違いなく大きくなってるはず。
もちろん太っただなんて意味じゃなくて、身長とか、身体つきとか。

正直、ずっと顔を見上げていれば首が痛くなりそうなくらいだ。たぶん30cm以上差があるもんね。

多少焦りつつもそんな思いで放った問いかけに、まだ笑いの残った表情の柊くんがうなずいた。