「気遣ってくれて、ありがとう。でも私、今の生活全然大変だと思ってないよ?」

「……本当か?」

「うん。本当本当」



キッパリ言って、さらに言葉を続ける。



「私、今は図書館で働いてるでしょう? せっかく取った栄養士の資格、必要ないのに……それってね、全然違う職種なら、前の職場にいたときあったゴタゴタのことを思い出さなくて済むかなあって考えたのもあったんだ」



友人が図書館職員のパート募集を教えてくれたとき、前職とのあまりの違いに正直迷いはした。

けれどあらかじめ雇用期間が決まっていることに後押しされ、採用試験を受けることを決めたのだ。

あの図書館で一生懸命に働いている人からすれば、失礼なことかもしれないけど……私はこの仕事を、一時的な逃げ場所として選んだつもりだった。

……だけど。




「だけどね、今の職場だって、仕事内容も一緒に働いている人たちもやり甲斐と張り合いあっておもしろいし……それと同時に毎日いろいろ考えながら献立決めて料理するのも、改めて私好きなんだなって思ってたよ」



無言で私の話を聞いてくれていた錫也くんを見上げたまま、ニッコリ笑顔を作った。



「実家にいるときはほとんど惰性になっててあまり達成感もなかったけど、錫也くんたくさん食べてくれるから、作り甲斐あって楽しいの。だから私は今、すごーく、毎日が充実してます」