「あ。帰り、スーパーとか寄るか?」



運転席で車のエンジンをかけた錫也くんが、思い出したように尋ねてくる。

隣の助手席に座る私は、シートベルトをしながら少し考えた。



「えーっと、そうだね。行っておきたいかなあ」



たしかもう、冷蔵庫にお肉ないんだよなあ。

あ、せっかくだし、今日の献立は錫也くんにリクエスト聞いてみようか。

そう思って顔をそちらに向けたら、なぜか彼が『しまった』という表情で自分の口もとに片手をやっていたので首をかしげる。



「ん? 錫也くんどうかした?」

「いや……」



少し言いづらそうに視線を逸らし、一瞬言い淀む錫也くん。

けれどすぐ、ため息をついてからまた口を開いた。



「なんか俺、あたりまえのように今日も晩飯作ってもらう気で話してたけど……たまには華乃の息抜きがてら、外食にしたっていいよなと思って」

「え?」

「大変だろ、毎日飯作るのも……頼りすぎて悪い。華乃だって仕事してるのに」



きょとんと目をまたたかせる私の目の前で、錫也くんはどこか居心地悪そうな表情をしている。



「……ふふ」



対する私はといえば、そんな彼の様子とセリフに自然と口もとが緩んだ。

浮かぶ笑みを隠すことなく、まっすぐ錫也くんを見つめた。