蜜月は始まらない

「それに錫也くん、今日猛打賞だったよね。最終回のホームランもちゃんと見てたよ。すごかった!」



グッと両手のこぶしを握りしめ、意識的にでもなく声に力がこもった。

そんな私を見下ろしていた錫也くんが、ちょっと困ったような表情で顔ごと視線を逸らす。



「……ヒットを打っても、それでチームが勝てなきゃ意味ないから」



つぶやいた声には悔しさが滲んでいて、茶化すなんて失礼なのに。

そんな彼の様子にいつかの面影を重ねた自分は、つい、ふっと笑みをこぼしてしまう。




「? 華乃?」

「笑っちゃってごめんね。だって錫也くん、高校のときと同じこと言うから」



あれは、高校3年の初夏だったろうか。

近隣の高校と練習試合をした野球部が、僅差で負けたとき……クラスメイトの男子から『でも、おまえは点取ったから仕事したじゃん』と声をかけられた錫也くんは、さっきと同じセリフを返していた。

あのときも今も、同じ悔しそうな表情。

彼はいつだって真剣にストイックに、野球と向き合っているんだ。

私の言葉を聞いた錫也くんは、一瞬驚いたように目を丸くした。

けれどもすぐ、どこか不本意そうに顔をしかめる。