蜜月は始まらない

「ふっ、あははっ! お疲れさま、錫也くん。一応答えると、今目の前にいるのは本物の花倉華乃です」



というか、偽物の私ってどんな??

錫也くんて、たまにちょーっと天然ぽいところがあるんだよねぇ。

くすくす笑いをこぼしながら答えた私に対し、彼は釈然としない顔でドアを閉めた。



「なんなんだ一体……俺を驚かすために、宗さんと華乃がグルになってたのか?」

「うーん、そうだね。グルになったって、ちょっと人聞きが悪いけど」



そうして私は、ここに至る経緯を錫也くんへと簡単に説明する。

話を聞き終わった彼は、深い深いため息を吐いた。



「やられた……華乃がスタンドにいるのに、全然気づかなかった」

「ふふ、やった。宗さんが、わざと気づきにくそうな席にしてくれたんだよ」



守備のためにキャッチャーマスクを被ってしまうと視界が狭くなるから絶対イケる!って、宗さん言ってたんだ。

おまけに私、錫也くんがバッターボックスにいるときは意識して応援グッズで顔を隠すようにしていたし。

してやったり、と頬を緩めっぱなしの私を見下ろして、錫也くんは不満げな表情だ。



「まあ、あの人がやりそうなことだけど……というか、せっかく華乃が観に来てくれてたのに勝てなくて、悪い」



拗ねているかと思いきや、申し訳なさそうに謝られた。

そこで私は笑みを引っ込め、ブンブンと首を横に振る。



「そんな! 私初めて東都ドーム来たけど、勝ち負け関係なく、生で野球観戦するのおもしろかったよ。応援歌とかチャンステーマとか、まったく知らない人たち同士で声合わせてやるのもすっごく楽しかった!」



なんとか彼の顔を晴らしたくて、心を込めて伝えた。

さらに私は続ける。