蜜月は始まらない

宗選手が取り計らってくれて、このあとは球場内にある個室で錫也くんと会えることになっている。

居酒屋で言っていた通り、錫也くん本人には内緒のサプライズだ。

今朝顔を合わせた感じを見ても、どうやら本気で錫也くんはこのことを知らされていない様子だった。

いいのかなあ、本当に……迷惑がられたり、しないかなあ……。



「今日はとっても楽しかったです! 誘ってくださってありがとうございました」

「ううん、こちらこそ。突然だったのに、来てくれてありがとう」

「いえいえー。では、またあさって図書館で~!」

「うん! 気をつけて帰ってね」



笑顔で手を振り、根本さんと別れる。

よし、と内心で気合いを入れた私は、近くを通りかかった男性の球場スタッフさんに名前と事情を話した。



「ああ、宗選手の! うかがってますよー」



どうやら、宗選手は完璧に根回ししてくれていたみたい。

親切なスタッフさんはすぐに思い当たったらしく、私を関係者以外は立ち入れないエリアへあっさり案内してくれた。



「どうぞ、こちらでお待ちください。今お連れしますね」

「すみません、ありがとうございます」



通されたのは【会議室】と書かれたプレートがついた部屋だ。

頭を下げる私にニコッと笑顔を見せ、スタッフさんはすぐに踵を返す。

ドアが閉まる音がやけに響いたひとりきりの室内で、私はようやく溜めていた息を吐き出した。