一切無いんだけど....。
見知らぬ男の部屋のベッドの上で寝ていたなんて。

ありえない。ありえない。ありえない。

もう何という失態だ。
穴があったら入りたいどころじゃない。
穴があったら入って埋もれてしまいたい。

いつまでも、洗面所にいるわけにもいかずリビングに戻ると、彼がテーブルの上に2つマグカップを置いているところだった。

「すみません。コーヒーまで用意させて」

「いいから座って。俺も隣いいかな?」

あたしと彼は微妙な距離を置いて隣同士でソファに座った。

「二日酔いにはなってない?」

「はい。大丈夫です」

「パンとかいらない?」

「いいえ。コーヒーだけで十分です。ありがとうございます」

そう言って、あたしはマグカップを手に取り湯気が立ち込めるコーヒーをふぅと冷まして口にした。