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「あっ、渡部先生!」
そう声をかければ、前を歩いていた渡部が振り返る。
いよいよ、である。
準備は整っている。
あとは、もう自分次第だ。
「ええっと、生徒会の新崎さん、ですか?」
メガネをくいっと戻しながら渡部は記憶を手繰り寄せるように口を開く。
「はい、あ、でも今回来たのは生徒会の関係ではなくて、先生に英語を教えてもらおうと思いまして」
そう言いながら、持ってきた教科書を掲げると渡部は不思議そうな顔をする。
こう見ていれば、いたって普通の教師である。
そのメガネの下に隠れた醜い心など見えやしない。
「でしたら2年生担当の田中先生のほうがいいのでは?」
「そうなんですけど…ええっと少し言いにくいんですけど、田中先生ってわかりにくくて。それで悩んでいたら先輩が文法は渡部先生がわかりやすいよって言ってくれて、だから教えてもらおうかなと思ったんですけど、ダメでしたか?」

