花と雫



「夏樹さんは恥ずかしがりなものでして、それに人と人が口づけ合っているのを見ていて気持ちのいいものでもございませんでしょう」

そういうと沙知はうっと言葉を呑み込み、黙った。
そして、二人のほうへと体を向きなおした。

「真理子様、信三様、私は夏樹さんのことが好きです。私は名もない家の出で地位などございません。ですが、どうか縁談の件に関しては少しばかり考え直していただけないでしょうか。無礼承知で申し上げます」

三つ指をつき、頭を下げれば隣の夏樹も同じように頭を下げる。

「…はぁ。____沙知様、この縁談見送らせていただいてもよろしいでしょうか」

小さなため息ののち、聞こえた声に顔を上げる。
目の前では沙知に尋ねる夏樹の父がいる。

「夏樹、彼女に感謝するのよ」