こうして迎えた決勝戦。先発は予想通り、白鳥先輩。休養十分の先輩が快刀乱麻、相手打線をピシャリと抑えて、勝利に向かって一直線。私達応援団の心は弾んでいた。


ところが・・・。


試合は、私達の期待や想像とは全く違った展開となった。白鳥先輩の調子は悪く、立ち上がりから相手校の痛打を浴びる。着々と加点する相手を、私達は切歯扼腕しながら、見つめるしかなかった。


「先輩、どうしちゃったんだろう。」


「うん・・・。」


たまりかねて、私はつぶやくけど、悠にも答えようもなく、ただ胸の前で、両手を組んで祈っている。


(聡志、なにやってるの?しっかりしなよ!)


私は八つ当たり気味の思いを抱いてしまう。そしてついに悲劇は起こった。


3回、マウンドに上がった先輩は、相変わらず、これまでとは別人のように精彩を欠いたピッチング。あっと言う間に塁上にランナーが2人。


それでもマウンド上の先輩は、怯むことなく、バッターを睨み据える。先輩の闘志は衰えていない。だけど・・・。


その瞬間、5万人の観衆で埋め尽くされてるはずの甲子園が、一瞬静まり返った。次の1球を投げた瞬間、白鳥先輩は凄まじい絶叫と共に、右肩を押さえて、マウンドで崩れ落ちた。


(えっ?)


何が起こったのか、わからず戸惑い、立ち尽くす私の目に、聡志が、松本先輩が慌ててマウンドに駆け寄る姿が写った。


続いて駆け寄った審判団の表情も変わり、すぐに担架が呼び寄せられる。苦悶の表情を浮かべたまま、担架に乗せられた白鳥先輩は、グラウンドから姿を消して行った。


泣きじゃくる悠の肩を抱き寄せながら、でも自分自身も呆然としたままの私は、急遽リリーフに立った尾崎くんが、レフトスタンドに豪快なホームランを叩き込まれるのを、まるで別世界の出来事のように眺めていた。