あれから2週間程が過ぎた。8月に入ったこの日、夏休み中の学校は、甲子園へ向かう俺達を見送ろうという人達で、久しぶりに賑わいを見せていた。


2度目の甲子園春夏連覇の偉業を期待する人達の盛大な見送りを受けて、俺達のバスは新横浜駅に向けて出発した。


「さぁ、いよいよだな。」


「ああ。」


隣の席の神が張り切る横で、俺は気のない返事を返す。


「どうした、早くも緊張か?」


「・・・。」


「しっかりしてくれよ、司令塔。頼りにしてんだから。」


そう言いながら肩を叩いて来る神に、曖昧な笑顔を返すと、俺は、車窓に目をやった。


見送りの人々の中にあいつの顔があった。いつものように相棒の水木と仲良く並んで、一所懸命こっちに向かって手を振っていた。でも、それはもちろん俺に向けられたものではない。


「幼なじみなんかに戻りたくない。」


俺は由夏にそう言った。それは俺の本心だ、俺はあいつと仲良しこよしの幼なじみになんて、今更戻りたくない。だって、俺はあいつのことが・・・。


その思いが、思わず出てしまった故の言葉だった。


でもあの状況、あの文脈で俺があの台詞を吐けば、由夏にどう伝わるか、それはもう1回仲良くしようと言ってくれた由夏の気持ちを、手ひどく拒絶したことにしかならない。


それに気づいた時、俺は愕然とし、日本語の難しさに思わず呻いた。


さすがにこれはキチンと謝らなければ、と思った。だけど、あれはそういう意味じゃなかったんだと、言えば当然、じゃ、どういう意味なの?ということになる。


そこで正直に自分の気持ちを由夏に伝えたら・・・あいつは引くだけだろう。あいつの中で、俺は所詮、そんな対象になり得ないことは、痛感してる。


と、すれば、どの道、結果は同じことじゃないか、ということになる。だったら・・・って考えた俺は、結局何も言えず終い。


今度こそ、本当に由夏とは口もきけない仲になった。そんなことをうじうじ考えてた俺は、とんでもない失態を自分がしでかしていることに、まだ気が付いていなかった。