「幼なじみに戻れない?」


そう言って、真っ直ぐ俺を見る由夏。お前・・・。


「いろいろあったんだよね。ピッチャ-辞めちゃったのも、学校で野球部以外の人間をほとんど寄せ付けないのも、向こうの中学できっと。何があったの?って聞きたい。でも聡志が話したくないんなら、もう聞かない。だけど、今の聡志見てるの、つらい。君は余計なお世話だって言うかもしれないけど、私は小学校の時の明るい、誰とでも気さくに話す聡志に戻ってほしい。」


「・・・。」


「私、聡志に嫌われてると思ってた。ある日突然、口もきいてくれなくなって、そのまま仙台行っちゃって、帰って来てもほとんどけんもほろろで・・・。だけど、こうやってたまにだけど、話せるようになって・・・私は嬉しいんだ。だから、学校でも普通に話そうよ。別に幼なじみなの、隠す必要ないじゃん。」


由夏・・・俺はお前を嫌いになったことなんか、1分1秒たりともない。なんて言ったって信じてもらえるわけねぇか。だってずっとそういう態度、俺がとって来たんだもんな。


全ては自分の身から出た錆なんだ。俺は先輩の頭に故意に、デットボ-ルを食らわした。結果、とんでもないことをする奴って、大袈裟でなく学校中から白眼視された。あとで俺だけが一方的に悪いんじゃないということは、わかってもらえたけど、もともと転校先に馴染めなかった俺は結局そのまま、浮いた存在になり、俺も周りに心を閉ざしてしまった。


俺は野球を通じてしか、人と付き合えない、人を信じられない悲しい男になってしまったんだ。


それは由夏に対してさえ、そうだった。まして、小学校以来の自分がとってきた態度で、俺の方こそ由夏に嫌われてると思ってたし、松本先輩に夢中の由夏を見るのも辛かった。


でも由夏は、そんな俺のことを心配してくれてたんだ。俺になんの関心もなかったわけじゃなかった・・・だけど、それは喜ぶべきことなのか?むしろ俺には残酷だよ。


「俺は・・・幼なじみなんかに戻りたくない。」


絞り出すように、こう告げた時の由夏の悲しそうな顔を俺はたぶん一生忘れないだろう。


「そっか・・・わかった。聡志が嫌なら、しょうがない、よね。」


そう言うと、由夏はそのまま2階の自分の部屋へ、駆け戻ってしまった。


俺は食卓に残った唐揚げをしばらく眺めていた。さっきまでの楽しい時間をぶち壊した自分に腹が立ったけど、もうどうにもならない。


「由夏、帰る。ご馳走様、唐揚げ、美味かったよ。」


一応、下から声を掛けたけど、当然返事はない。俺は悄然と由夏の家を後をした。


そして、自分の言葉が、言いたかったこととは、違った意味で、由夏に伝わってることに、ようやく気が付いたのは、家に帰ってからしばらく経ってからのことだった・・・。