『まだ家なの?もう試合始まっちゃうよ。』


携帯の向こうで、悠が呆れた声を出す。3月に入って、時はますます早く流れて行く。私達が学校に行くのも後は、明日の卒業式の予行練習と、日曜日を中1日はさんだ卒業式本番の2日だけ。


そして今日は野球部の追い出し試合。姿を現さない私を心配した悠から、連絡が来るけど


「悪いけど、私行かないから。」


と私。


『エ~、どうしたの?由夏。』


困惑する悠に


「そんな試合、別に見たくないし。なんでわざわざ、学校まで行かなきゃならないのよ。」


『今更、何言ってるの?沖田くんと約束したじゃん。必ず応援に行くって。』


「そうだったっけ?」


『そうだよ。そんなんじゃ、約束破ったって、塚原くんのこと責める資格、由夏にはないよ。』


「・・・。」


『とにかく早くいらっしゃい。みんな待ってるから。』


「あっ、ちょっと悠・・・。」


何か言おうとする私に構わず、悠は電話を切った。


わかってる、わかってるんだよ、悠。私、自分が子供みたいに駄々こねてるって。でも行きたくないよ、見たくないんだよ。あの子があいつを応援してる姿を。いやそうじゃない、あいつがあの子に応援されてる姿を・・・。


この前の月曜日、私はあのカラオケパ-ティの6人組で、浅草に遊びに行った。浅草寺を始めとした、人気の観光スポット。近くには東京スカイツリ-もある。前の週、にわかに盛り上がったグル-プお出かけを、現実のものとしたのは、幹事役の私と沖田くん。


観光とグルメ、どっちも堪能できる、我ながらナイスな場所の選択だと思うんだけど、問題は6人の中に非常に気まずい関係に陥ってる人が約2名ほど・・・。


まぁ、言うまでもなく、それは、私と聡志なんだけど。正直、聡志はハブんちょにしようかとも、思ったりしたけど、それはあまりにも大人げなく、みんなに引かれてしまうだろうから。


聡志には沖田くんが声を掛けると、行くって返事。断ってくれればいいのに・・・なんて思っちゃった私って、酷い奴だよね。


そして迎えた当日。天気は快晴、みんな楽しそうな顔で集合した私達は、元気に出発。電車の中でも、卒業間近の高校生とは思えないくらい、にぎやかだった私達だけど、でも私と聡志は端と端。


そんな私達に、みんなも当然気付いて、特に悠と加奈は、なんとか、あいだを取り持ってくれようとするけど、ごめんね。私達のことは、もう気にしないで、せっかくの浅草を楽しんで。