いち、や……?

カラオケボックスのドアが突然開いたと思ったら、その人物に強く抱き寄せられた。

声、匂い、頬に触れる胸の感触、彼だ。壱哉だ。

でも、どうして壱哉がここに?

持っていたガラスの破片が床に落ちる、パリンという音で、それまで停止していた思考が弾けた。


「大丈夫か?」

「う、うん」

「遅くなってごめん」


壱哉は着ていたシャツを脱ぎ、私の肩にそれを掛けてから、カラオケボックスの外へ出そうとドアの方へ私を押しやる。

だけど、彼を残して逃げるなんてできるわけもなく。


「邪魔すんな、おらやぁ!」


それまで呆然としていた男たちの1人が大きな声を出し、壱哉に殴りかかった。

だめ! 背後を取られてる!


「ボディーが、ガラ空きなんだけど」


――え、

てっきりやられると思って叫んでしまったけど、倒れたのは殴りかかった男の方で、壱哉は汚いものを払うかのように右手をひょいひょいと振った。


「てめぇ、舐めやがって」


次に来た男も、最後の男も。

あっと言う間に壱哉の足元に崩れていく。

この細い体のどこにそんな力があるのだろう?

床で伸びている男たちを奥のソファに向かってひょいひょいっと投げた壱哉は、唖然とした様子で固まっているゆっこちゃんの前まで行き、顔を合わせるように屈んだ。