「ただ、    」



気が付いたら、弾けるようになってたとか天才じゃないか。

私なんて3歳の頃からピアノを習っているけど、未だに上達しないよ。

繋いでいる壱哉の手は大きくて、指は細いけど、ところどころマメが出来て固くなっている部分もあって、飄々としているけど、実は相当練習しているんだなぁと思う。

『本気で音楽をやりたいはずなんだよ』

空くんの言葉が頭をよぎった。

いつかそんな話を壱哉から聞けたらいいなぁ。

私に話してくれる日が来たらいいな。


「そうだ、今度の休みに一緒にスタジオ……、」


そこまで言いかけた時、壱哉がある一定の場所を見ていることに気が付いた。

目線は追えないけど、なんとなく「見てる」のが分かる、その場所にあるのは、お父さんの選挙ポスターだった。


「この人」

「あ、あの」

「美波と同じ苗字だな。親戚だったりする?」

「ま、まさか」

「だよな」


冗談だよって、笑う声。

それに対して、やだなぁと返しながら、背中が冷や冷やするのを感じた。


「壱哉って政治家が嫌いなの?」

「え、なんで?」

「いや、何となく……」


空くんから聞いたとは、言いずらいし。

本当に何となくだよ、と、明るく笑った私に、


「嫌いというか、憎んでる」


壱哉はそう答えた。