涼風side

奏が出て行った後の部屋の中は妙な静けさで

私達3人を含めて他の子達も

誰一人として口を開かない

だけど、私はこの雰囲気が有り難い

それだけ、これからの事を

真剣に考えている証拠だからね

でも……

それにしたってこの子達、面白い

これから来るであろう穂花に対して

敵意剥き出しなんだもん!!

もちろん私も同じ気持ちだけどね〜

穂花にネグレクトの本当の怖さを……

ネグレクトによって失うものと得るものがあること

もちろん失うものの方が多いんだけど

それには遠く及ばないけど得るものがあることも

キッチリ教えてやんないとね

それとは別に、嘘で人を操る行為が

誰かを傷付けてしまうことになるか……

そして苦しませることになるかを分からせる

ほんと、これだから自己中の自意識過剰女は

厄介なのよね〜

ピンと張り詰めた空気の中

1人ほくそ笑む私を日向と絵留が

呆れた表情を浮かべて見てたなんて知らなかった

早くも臨戦態勢の私は今か今かと待ち構えていた

ーガチャッ

突然開かれた扉の先に奏と穂花が現れて

更に部屋の中はピリピリムード

これから起きるであろう結末を知らない

呑気な穂花はニコニコしながらやって来て

北斗を見つけるなり擦り寄る始末だ

アホだ、この子……

そんな穂花に冷たい視線を向けているのは

この場に居る全員が同じ

ちょっとは空気読めよっ!!

内心、腹わたが煮えくり返っていると

聞こえてくるのは甘ったるい声

「北斗〜!さっきは送ってくれてありがとう〜!
まさか今日のうちに又会えるなんて
穂花嬉しい〜!!
それに北斗のお仲間さんもいるし!
あ、さっきはありがとうございまーす!
手当てして下さった方……絵留さん?だっけ?
あと、奏くんのお姉さんもお久しぶりですね〜!

奏くんに誘われてお邪魔しちゃいましたけど
何の集まりなんですか〜?」

この子はどこまで鈍感なんだろ?

この空気の中、ニコニコしながら居れるって……

それかもしくは……

自作自演なんて馬鹿げてて浅はかな事するんだから

ニコニコしながらお腹の中は真っ黒で

策士なのか……

まぁ、私の予想ではこの場にいる段階では

前者の方かなぁ〜

ってか、誘われてって、奏は一体なんて言って

此処に連れて来たんだか……

「奏、何の説明もなしに……なのかな?」

私の引き攣り笑顔に冷笑を浮かべて

「きちんと……とは言えないけど
皆んなでワイワイ集まってるから
ゆっくり話さない?って誘ったよ?」

我が弟ながら、冷笑が怖いわね

けど、遠からずもって感じかな、誘い出すには…

「そう。
じゃあ、皆んなでワイワイ集まってる事だし
ゆっくり話しましょうか!
ところで……
穂花、久しぶりね?
怪我したみたいだけど…大丈夫なの?
事情は奏から聞いたわ。
大変だったみたいね……」

私の完璧な作り笑顔に

心なしか日向と絵留、奏は肩を震わせ

笑いを堪えている模様

あんた達、あとで覚えてなさい!

ひと睨みすると、ぴたりと動きを止めた

そんな私達の様子に全く気付かない穂花は

ニコニコしながら、こちらに顔を向けた

そして一瞬で悲壮感を漂わす表情を浮かべた

その変わり身の速さに驚き半分と呆れ半分だ

「はい……実はお父さんからまた……
今回は昔ほどではなかったんですけど。
でも久しぶりだったせいか怖くなって
北斗に助けを求めたんです。

そしたら一緒に居てずっと守ってくれるって……
好きだって言ってくれたので甘えちゃいました。
だけど倉庫には泊まらないで家に帰されたから
不安だったんですけど……

こうして会えて嬉しいです!」

実際暴力を振るわれたら

普通の人間なら、こんなニコニコしないんだけどね

まぁ、自作自演だから当たり前よね

っていうか……

好きだと言ってくれたって言った?

いくら幼馴染で、暴力を振るわれて泣きつかれても

好きな女の子がいるのに何言ってんの!?

しかも誰が聞いてるかも分からない倉庫で!!

穂花も穂花だけど、北斗も北斗よ!!

それを聞いて泣く詩ちゃんの姿を浮かべたら

胸が張り裂けそうよ……

女心が全く分かってないわね!!

そんなホイホイ“好き”なんて言って

自意識過剰の勘違い女をつけ上がらせるだけよ!

「へぇ〜そうなの?北斗がねぇ〜……
だけど、私達がさっき聞いた話では
穂花じゃない別の人が好きみたいよ?
ねぇ、北斗?
本当のところはどうなのかしら〜?」

私はニッコリ笑顔で北斗を見つめる

私の極上スマイルに呑気な穂花以外が

顔面蒼白になってるなんてつゆ知らず……

私はただただ北斗の真意を聞きたくて仕方がない

そこに何の意味も感情もこもってなくても

言葉を受けた側も、聞いてしまった側も

言った本人の本当の気持ちなんて分かるはずがない

心の中が透けて見えるんじゃないんだもの

だからこそ言葉は丁寧に慎重に発しないと

いけないと思う

「穂花、俺は幼馴染としてって意味で
昔から伝えてきた言葉を話しただけで
異性としてじゃねぇんだ。
勘違いさせて申し訳ないと思う……ごめんな。
俺には特別で大切な奴が居て
心から守りたいと思ってる好きな女がいる」

北斗の真剣な表情に穂花は一瞬呆然としたけど

次の瞬間には、顔を真っ赤にして睨みつけた

「私は小さい頃から北斗の特別だと思ってた!
好きだって……守るって言ってくれたよね!?
なのに、どうしてそんなこと……

もしかして……あの子なの?
倉庫に居た金髪の女……
あの子がいるせいで素直になれないだけだよね?
だってあの子、見た目は良いかもしれないけど
喋れないんでしょ?
何の役にも立たない欠陥品じゃない!
北斗は優しいから同情してるだけよ!
ねぇ、そうでしょ?
北斗の優しさに漬け込んで、私と北斗の間を
邪魔するなんて許せない!!
姫である事も、北斗の傍に居る事も
あんな子よりも私の方が相応しいのに!!」

話せば話すほど、本性丸出しになってるって

気付いてないのかしらね〜

でも、急に北斗の前に現れたワケが分かったわ

勘違いさせるような態度を取った北斗が悪いけど

だからって、何の罪もない詩ちゃんを

侮辱して排除しようとするなんて最低だわ

好きな男を想う、その女心は理解できるけど

やり方が卑怯過ぎる

穂花の言葉で部屋の中の空気は一瞬にして

温度が下がった

今の言葉で元々好意的ではなかった穂花に

此処にいる全員を敵にまわしたわね

「穂花は昔も今も幼馴染の1人でしかない。
好きだって言うのも幼馴染としてだ。
勘違いさせたなら悪いとは思うが
穂花を1人の女として見たことは1度もない。
これから先も、それは絶対に変わらねぇ。

俺が唯一そう想える特別な女は詩1人だけだ。

それから、あと1つ……
詩は役立たずでも何でもねぇよ。
俺を含めた星竜の奴等も、詩を大切に想ってる。
話せなくても、それは俺らにはなんて事ないことだ
あいつは誰よりも優しいし、誰かの為に尽くしても
何の見返りも求めたりしない。
同情なんかじゃねぇよ。
俺はあいつに心底惚れてる……
あいつに出会ってなくても穂花を好きになることは
ねぇよ」

北斗の真っ直ぐな眼差しと言葉を聞いても

納得していない

さぁ、この場をどうおさめるのかしらね……

「穂花、北斗の言葉は真実だよ。
確かに北斗からの言葉は勘違いさせるような
ものだから反省すべきだと思う。
だけど、僕も幼馴染として言った事もあったよね?
僕も北斗も幼馴染として接してきた。
そこに情はあったけど恋愛の情は全くなかった。
穂花には受け入れたくない事だと思うけど
北斗の気持ちは詩ちゃん、ただ1人に向けられてる。
この先それは変わる事はないんだよ」

静かに諭すように話すのは奏だった