北斗side

前日の夜の抗争で負傷者がでた

傘下に顔を出した帰り道

繁華街の路地裏から聞こえるのは

ナンパでもしているであろう声

俺らの縄張りでナンパはご法度だ

命知らずな輩がまだいるのかと

溜め息が出る

あ〜、めんどくせぇなぁ…

運が悪かったと思うしかねぇか

そうして

声のする方へ足を進めれば

男2人が1人の女を連れ去ろうとしている

女は涙を流しながら

必死に手を伸ばしている

悲鳴も上げられないほど怖いのか?

女の目線の先…は

俺じゃなくて、俺の足の方?

そうやって足元を見れば

ちょうど俺の足元には小さい猫

ちっこくて震えてやがるし

ジッとまん丸な目で見てくるコイツ

しゃあねぇなぁ…

しゃがんでそっと抱き上げ

目線を女に向けると

金髪碧眼の女が

必死に手を伸ばしている

コイツの為か?

腕の中で震える猫に視線を落として

もう一度前を見据えた

「そこで何をしている」

俺の声に反応した馬鹿な男どもは

俺を知らないのか大声で叫びながら

向かってくる

「チッ…雑魚が」

回し蹴りを食らわせて蹴散らし

仕方なく声を出す

「ここは星竜の縄張りだ…散れ」

俺の言葉を理解したのか

情けない悲鳴を上げながら立ち去った

俺らの縄張りでナンパするヤツが

まだいたのか…

下っ端に見回り強化させておくか

そんな事を考えて女の存在を忘れていた

俺はゆっくり振り返り

呆然と立ち尽くしたままの女に

猫を渡した

ジッと見つめていると

猫を大事そうに抱えて笑顔を見せた女は

俺を見上げて怖がるどころか

笑みを浮かべ…

突然俺の手を取り

手の平に何か書き始めた

あ、り、が、と、う

ありがとう?って助けた事へのか?

けど、何で言葉じゃなくて

手に文字を書くんだ?

頭の中には?が浮かぶ

不思議に思っていると

ペコリとお辞儀して

俺の横をすり抜けていく

俺を見ても怖がらず、媚びも売らず

ただ≪ありがとう≫と笑みを浮かべた

女の後ろ姿を見送り

俺はその場からその姿が

見えなくなるまで動けなかった

あんな女は初めてだった

何色にも染まっていない

汚れを知らない澄んだ瞳

心が温かくなるような笑顔

子供みたいにちっこくて

肩につくかつかないかのふわふわの髪

青色のクリクリした大きな目

透き通るような白い肌

生まれて初めて傍に置きたいと

思った

この手で守りたいとも…



これが後になって俺にとって

初めての恋だと気付くのは

もう少し先の話…



ありがとうと書かれた手を見つめて

「見つけた」

そんな言葉が溢れた

その手を握りしめてスマホから

俺の仲間である1人に電話する

ープルルルル

数回のコールの後

『はい、どうしたの?北斗から連絡なんて
傘下で問題でも発生??』

スマホ越しに聞こえる柔らかな声

俺達"星竜"の副総長であり、幼馴染の

桜川奏(さくらがわそう)だ

「いや、傘下の方は何の問題もねぇ…
…ただーー見つけた」

女の顔を思い浮かべて口角が上がる

『…見つけたって。
もしかして…姫ってこと?』

「あぁ、そうだ。
あいつ以外ありえねぇ」

『北斗がそんな事言うなんて珍しい…
ってか初めてだよね?
名前は??』

奏に聴かれて初めて気付いた

そういや名前聞いてねぇ…

数秒の沈黙の後

『まさかとは思うけど…名前分からない?』

「…聞くの忘れた」

電話の向こう側でクスクス笑う奏に

内心で舌打ちをする

『北斗がそんなヘマするなんてね…
とりあえず特徴があれば探し出せるかも』

「あぁ、覚えてる」

特徴を全て伝えながら

倉庫へと足を動かした