下っ端side

俺は下っ端の奴らを引っ張る立場にいる

幹部以上の皆さんから下への連絡や

報告、指示出しなども行う立場にある

要は下っ端のまとめ役だ

そして今日もいつものように

1日を終えると思っていた…

だけど、転機は突然訪れた

倉庫でバイクのメンテナンスを終え

ひと息つこうとした矢先

総長達がやって来た…が

総長の片腕に抱えられて

1人の女の子が入ってきたのだ

金髪碧眼の可愛い女の子は

子供のように目をキラキラさせて

倉庫をキョロキョロと見回している

総長の腕の中に居るということは

彼女…という事でいいのだろうか?

とりあえずここはまとめ役の

俺が聞くしかないよな

「あの…総長、そちらは
どなたなんでしょうか?」

俺の問い掛けに返ってきたのは

「これから報告がある。
集まれる奴は全て集めろ。
話はそれからだ、集まり次第声を掛けろ」

との指示だった

この展開は間違いなく姫のお披露目で

間違いない

「了解しました!」

そこからは止まらぬ速さで下に指示を出し

星竜に属する全ての下っ端に

緊急招集をかけた

そして一階に全ての下っ端を整列させた

ところで、総長達が女の子の手を引き

階段の踊り場で足を止めた

そこで見たのは初めて見る

総長や幹部の皆さんの優しい表情

今までは女には目もくれず

一言で言えば“冷酷”…

だったのに、この女の子には

温度のある表情を浮かべている

すごい女の子がやって来たと思った

その時倉庫に総長の声が響く

「今日はお前らに報告があって
招集をかけた。
姫になる奴を紹介する為だ。

詩、挨拶いけるか」

総長の言葉に少し緊張しているのが

遠目でも分かる

そりゃそうだよな…

あんなか弱そうな女の子が

大勢の男に囲まれて平気で居られる方が

おかしい…のに…

次の瞬間、女の子は階段を駆け下りてきて

ノートに一心不乱に何か書いてる

一体なんなんだ?

そして、渡されたノートに目を通した俺は

顔には出さないがかなり驚いた

その内容にも、彼女がノートを

使わなくてはならない理由にも…

≪初めまして、星川詩です。
私はこの通り喋ることが出来ないの。
だからノートに書く事でしか
伝えられない。
ごめんなさい。

北斗をはじめ、錬や奏
奈留や冬とお友達になってすぐに
姫になって欲しいって言われたの。

みんなには話したけど
暴走族っていうものが何なのか
今の私にはまだ正直よく分からないけど
心に決めた事がある。

喋れない、喧嘩も出来ない私だけど
みんなを守るって。

みんながいつでも笑顔で居られるように
苦しい事や悲しい事があったら
誰より近くで向き合って寄り添おうって。

世間の人がなんて言おうとも
私は絶対に味方になるって。

私のモットーは
自分の目で見て感じたものだけを
信じること!
外側ばかりに目を向けて
内側を知ろうともしない人は
私は絶対に認めない!

周りの人がどう思うかなんて私には
関係ないの。
私は自分の目で見て感じたものだけを
大切にしたいの。

みんなを傷付ける人達から
守りたい!
もちろん守るのはみんなの心をだよ?

みんなの心の盾になりたいの!

私は星竜のみんなと仲間になりたい!

よろしくお願いします。

星川詩≫

こんなに小さな身体の彼女、詩さんは

俺らの心の盾になりたい

仲間になりたいと言ってくれた

守られて当然だと思っている

女しかいない、そう思っていた

俺らは星竜という名のブランドで

その星竜をアクセサリー扱いする

女しか見て来なかった

けど、詩さんは違う

か弱そうな見た目とは真逆で

強く芯のある人だ

詩さんだから星竜の姫…

星姫に相応しい

いや、詩さんになって欲しいと

俺を含めた奴らは思ってる

心の盾になると言ってくれた詩さん

なら俺たちは詩さん自身を守る

盾になると決めた

「総長!俺らは全員、満場一致で
詩さんに姫になって欲しいです!」

それが俺たち下っ端が出した答え

そして死ぬ気で守ると宣言すると

両手でバツを作り怒る詩さんと

譲れない俺たち下っ端で

小競り合いを繰り返して

お互いに納得する方法で決着した

詩さんはなかなかに手強い

でもこんなやり取りも楽しいと

思えるのは詩さんだからだ

本当にすごい人がやってきた

今日、星竜の姫…星姫が誕生した

これからが楽しみです、詩さん