一呼吸、置いて、私は続ける。
「だけど、
リルハちゃんは今でも柚が好きで、
柚はリルハちゃんが好きだった。
…これは事実でしょ?
なのに、少しでも信じてあげた?
ちょっとでも分かってあげようとした?」
カクテルに結露した水滴がついた。
それが全て滴り落ちてしまうが先か、
柚の怒りが収まるが先か。
想像もつかない選択を、頭の中でぼーっとしながら作る。
頭が痛い、
なんだかだるい。
どうしようもなく生ぬるくて、
この空間に、私的にはもっと温かい何かが欲しかった。
例えば、“笑顔”とか。
人間の悲哀に満ちた顔を見るより、
笑顔を見る方がいくらか気分がいいだろう。
けれど、この雰囲気を作り出したのは私。
…それも、意図的に。
中途半端はだめだ。
ーー私が、しっかりしなきゃ。
柚を見つめた。
涙で濡れてぐしゃぐしゃになったその童子顔から滲み出る、
尋常じゃない量の殺気。



