髪から垂れた水滴が肩を濡らす。



「先輩…?」


「俺の言葉を本気にしてたら、ごめん。でもよく考えてみてよ。俺が君みたいな子を相手にすると思う?」


嘘だよね?
何を言われているか理解できない。





私が大好きな黒瀬良斗先輩は、


身長178センチ、A型。
4人家族でお兄さんが1人。

帰宅部だけど
家庭教師のアルバイトを頑張っている。

ストレートな黒髪
と二重瞼に綺麗な瞳をしていて。

常に柔らかい表情を浮かべている。
負の感情が欠如しているのではないかと疑うほど、温厚なんだ。


そして私の告白を笑いもせず、
"ありがとう"と優しい返事をくれるんだ。




ーー今、私の目の前で、

薄ら笑いを浮かべて、小馬鹿にした視線を向けるあなたはいったい誰?


誰なの?



「毎度飽きずに告白をしてくる君を見ていることは、実に愉快だった。少しは退屈凌ぎになったかな。ありがとう」



ーー"ありがとう"?


いつもと同じ言葉は、全く別のものに聞こえた。





「先輩、なに言ってるの…」


とても酷いことを言われているこの状況でも、濡れた前髪を搔き上げる色っぽい仕草に、目が離せない。