4月は、言われたことを間違えないようにやるので精一杯だった。


昴も詩織も私も、出勤初日以来飲みに行く元気もなく、張りつめた気持ちを支えながら、家と会社の往復を続けていた。


それでも、たまにはランチしたり、うちの会社はフリーアドレスなので席が決まってないんだけど、偶然近くになったりして話すことはあった。


そして、ゴールデンウィーク。


詩織と映画を見に行く。


裕和が大阪から会いに来てくれる。


裕和が来るのは、5月3日だった。


東京駅の新幹線口で待っていたら、ふいに右肩をたたかれた。


なに?と思って振り向くと、頬に指がささった。


裕和は、後ろから来るはずないし、こういうことはしない。


するとしたら。


「昴くーん、古い」


「なんや、もっと驚くかと思ったのにな」


「彼女のお迎え?」


「そうや、メグは彼氏のお迎えか?」


「そう」


「須川さんに会うの久しぶりやな」


須川さん=裕和は、大阪支店にいた昴と仕事で接点があった。


「昴の彼女に会うの、初めてだね」


「そやな」


新幹線が到着したらしく、たくさんの人が改札口に向かって歩いてくる。