「君、本気でライナに勝てると思ってるのか?」

ルーシーがため息混じりで呟いた。

「君が彼より強いと俺は思わない」

「やってみれば判るよ。おっさん」

シオンはライナの方へと走り出した。

(……思ってたよりも速い)

ライナは剣を構え、シオンを迎え撃つ事にした。
速さがあり、こちらに突っ込むのであれば、下手に動くのは得策では無い。

間合いを理解し、瞬時に対応するスキルを有するライナならばの戦法だった。

ライナは蒼い瞳でシオンの動くを捕え、剣を振う。

「っ!」

血が飛び散った。
ライナの左の袖が破れ、肩から血が流れていた。

「……中々やるな」

(想像よりもリーチが長い)

ライナは口元を釣り上げ、再び構えた。

「だが負けない」

「そう来なくちゃ、殺す価値が無い」

シオンは足を止めず、再びライナの方へと駆けていく。


(……ライナ…)

優奈は2人の闘いを見つめることしか出来なかった。

(…勇者なんだから、大丈夫だよ…ね…。悟…ライナ守ってあげて…)

声に出せない祈りを心の中で何度も何度も繰り返した。


2人のぶつかり合いは激しさを増す。

ライナは剣、シオンは拳

ぶつかる度に衝撃が風として、辺りに吹きつける。



(想像以上に出来るようだが…やはり、武はライナにあるようだ)

ルーシーはこの闘いに手を出さなかった。

速さと速さの戦いにおいて、自分が出る事は得策では無い。
また、この戦いにライナが負ける事はないと確信していた部分もあった。

(本気のライナに勝てる相手は数少ない。君では彼に勝てる事は無い)


ルーシーは視線を反らし、優奈の方を見た。

(俺は俺の仕事をするか)

ルーシーはライナとの戦いに意識が集中しているシオンの隙を見て、少しずつ優奈の方へと近づいて行った。


一方、シオンは少し戸惑っていた。

勇者なんて、名ばかりの奴ばかりだと思っていた。
仲間が居なければ、何も出来ない者だと思っていた。

ライナは個人のスペックがかなり高く、少しずつシオンを詰めて行った。

(化け物か、こいつ!俺の速さに慣れるばかりか、少しずつ速さが増してる…っ!)

シオンは技を放った後、一旦ライナから距離を取った。

「はぁ…はぁ……」

「まだやるか?無駄な争いは好きではない。優奈を返せ」

「……気に食わねぇ!」

激しい憎悪を露にし叫ぶシオンだか、その瞳はライナに向けられていなかった。

その憎しみはライナ一個人では無く、勇者に、人間に、そして魔物全てに対するものだった。


「俺らを見捨てたくせに…」

シオンは小さく呟いた。

ライナはそのか細い声を聞き逃さなかった。

「え?」


「うわぁぁぁ!!」


シオンの叫び声と共に、彼の右手が異形へと変わる。

生々しい音と共に現れたそれは、人間の物では無く、何かの獣の腕だった。


「ボクは…、ボクらは絶対許さないっ!」