「今はもう代替わりしていると聞いている」

「代替わり…?」

「その契約を交わした妖精の子供が現在は引き継いだらしい」


そんな情報よく知ってるな、と思いつつ信じて疑わない自分にも驚いた。

この人が嘘をついているとは思えないのはなぜなのか…

さっき会ったばかりなのに。


「そして、妖精王というのは…」


と、アゼルが話の続きをしようとしたとき、バタンとドアが乱暴に開かれた。


「ティエナ…?」


そこにはなんと。

オルド本人の姿が。

ティエナは混乱した。

彼がなぜここにいるのか?


「オルド様…?」

「なんだ、知り合いか」


と、彼は淡々と言い、オルドを部屋に招き入れた。


「なぜここにいるんだ」

「それはこちらの台詞です!」

「まあ、とりあえず座れ」

「…指図するな」


無表情のオルドは静かにそう言うとスタスタとベッドまで歩いて生きティエナを抱き上げた。

その様子を見たアゼルは綺麗な微笑を浮かべた。


「なるほど、おまえの女か」

「黙れ」

「怪我人のフェールズ国民を引き渡そうと考えて呼びつけたんだが、話が変わった」


ドアの前に仁王立ちになった彼はやはり淡々と言い放った。


「その女を置いてすぐに退室してもらおう」

「呼びつけておいてその態度はなんだ」


オルドが言葉に怒気を含ませるとドアの外から声がした。


「オルド?大丈夫?」


ケイディスの声だった。


「護衛が怖くてここにいたくないんだけどさ?この部屋ってなんの部屋?いきなり飛び出して行ったけど…」


心から困ったような声が聞こえて思わず和んだが、部屋の中の空気は一触即発であまり和んでもいられなかった。

頭の中が混乱していた。


「平気だケイディス!そこで待機していろ!」


護衛が怖いとか言ってたのにかわいそうだなあ、と頭の片隅で思った。


「側近に何も言わずに出てきたのか」

「…連絡があった」


怒りのあまり口角が上がっているのか、声が震えていた。


「妹の侍女がここに向かう途中攫われた、と。犯人はメイガスの者だったということは元々知っていた。その連絡を受けてからの怪我人の保護…」


ふざけるな、と彼は吐き捨てた。


「おまえらがいたぶりつけたかっただけだろうが…!」

「…違います」


まさかティエナが口を挟むとは思っていなかったのだろう。

怒りを含んだ闇色のまま彼の視線がこちらに向いた。


「違います」


もう一度、自分自身が再確認するようにはっきりと言った。


「彼は悪くありません」

「…何を言っているんだ」


闇色が揺れた。

声が弱々しくなった。


ティエナの本心が悲鳴を上げていた。

でもここで顔をしかめるわけにはいかなかった。