しばらくしてリリアナを生むとすぐに彼女はその姿を消した。

その行方をケイディスさえ知らない様子だったが、あの人がいなくなったことにより俺とケイディスはやっとお互いを認識した。

すぐに仲良くなり、リリアナの世話を協力してするようになった。

乳母を雇うことを禁止されているため見よう見真似で育てた小さい女の子は、今では俺たちを尻に敷くぐらい強い女性へと成長しつつある。


「体罰の分と剣の稽古の分、襲撃されたときの分の傷がここにはあるんだ」


どれがいつのものかはもう覚えていない。

そんなものは忘れた。


「リリアナが以前怖がったから俺は一緒に風呂に入ったことはない」


そのときの泣きようを今でも思い出せる。

なかなか泣き止まず苦労した。


「…眠ったか?」


全く反応がないため確認しようと手をついて彼女の顔を覗き込むと眠ってはいなかった。

彼女は静かに涙を流していた。


「見ないでください…」


ぶすっとした顔で俺から視線を外し下を向かれ、その体勢で苦しくないのだろうか、と思った。


「勝手に全部話してご満足ですか」

「え、いや…」


そんな泣くほどの話でもないだろうに。


「オルド様は過ぎたことだと思っていらっしゃるかと思いますが、何も知らない人が聞けば誰だって悲しくなります」


…俺たちの出自を誰かから何か聞いていると思っていたのだがそうではなかったらしい。

えぐえぐと嗚咽を漏らし始めた彼女は苦しそうだった。

体力だってあまり残っていないはずだ。


「苦しいだろう、起こすぞ」

「えっ」


肩を持ち上げるためにそのあたりの布を掴むと思いのほか熱く、起こしてすぐに頬に手を添えるとさらに熱かった。

額は傷に障るといけないと思い触れるのをやめておいた。


「熱があるな」

「いいえ、元気です。眠くありませんし、寒くもありません。きっと泣いているからです」


と言っておきながらその事実に恥ずかしくなったのか、気まずそうに拗ねたように俯いた。


「いや、だが…」

「じゃあ見るのやめてください!熱じゃないんです!」

「言わなければわからない」


いきなり怒ったように大声を出す彼女が理解できず、こちらに顔を向かせるため、その頬に手を添えたまま顔を寄せて問い詰めるようにその目を見つめた。

熱い吐息が首にかかった。


「もう頭おかしいんじゃないですか?!だって裸…」


と、いきなりくたっと人形のように項垂れへなへなになり動かなくなった彼女に俺は心から焦った。


「おい!」


どうやら気を失ったらしい。

やはり熱があるんだろう。


「だって裸?……あ」


一番の原因は間違いなく俺にあることを今ようやく悟り自分の額に指をあてた。