俺が王女だったなら。

こんなことにはならなかったかもしれない。


出産と同時に死んだ俺の母親はまだ18歳だった。

黒い髪と闇色の瞳を持っていたと聞く。

ただの庭師見習いとして1か月に数回城を訪ねる程度で陛下との接点はなかった。


陛下はその当時焦っていた。

正妃との子が生まれない、と。

正妃もそろそろ20代半ばとなり、子供ができてもおかしくないはずだった。

それでもなかなか兆候が見られない。


陛下には何人かの側室がいたがそういう気分になれず、苛立ちを持ったまま城内をうろついていると見つけてしまったのだ。

黒くて美しい蝶を。

その誘惑に陛下は抗えず、俺が生まれた。

俺の命と引き換えに美しい蝶が死んだことで陛下はその日からおかしくなっていったそうだ。

そしてもう1人。

ケイディスとリリアナの母親もそうだった。


妊娠に喜び大事にお腹の中で育てた我が子。

しかし、まだお腹に陛下の子供がいるにも関わらず第1王子誕生の知らせが来た。

激しく動揺する彼女が見たのは。

あの黒い蝶に酷く似た男の子。


怒りを我慢して生んだ我が子は男の子。

陛下にそっくりで、憎きあの子供さえいなければ全てが解決する。

それは評議会も同じ考えで、何度も会議を重ね議論し陛下に結論を委ねると陛下はそれを許さなかった。

打診案はケイディスを第1王子とし、第2王子を俺にすること。

しかしそれも叶わず、正妃は絶望した。

陛下の前では物分かりのいい妻、ケイディスの前ではいい母親を演じたが、俺の前では悪魔になった。

罵倒。

体罰。

育児放棄すれすれの行動。

あの人はストレスの塊となり俺に襲い掛かってきた。

健気だった俺はそれでも勉強や武術に励み認めてもらおうと思ったが全て効果はなかった。

認めてもらえないという諦めに暮れるとこの山小屋に逃げ込み、ばれない程度に息抜きをして独りを堪能した。