打ち付ける雨の音。
響いてくる雷の音。
どれもが自然現象で恐ろしく。
とても力強い躍動で。
自分たちはなんてちっぽけな存在なのだろう、と思う。
「気が付いたか」
どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしく、身じろぎした音にオルドが気づいた。
声がした方に向くと目を見開いた。
「オルド様…」
上半身裸で肩から別の毛布を羽織り、片膝を椅子に乗せてそこに座わり、頬杖をついて窓の外を眺める彼がまるで彫刻のように見えた。
そしてティエナは服を脱いでいることに驚いたわけではない。
彼の方が細かい古傷がいくつもその引き締まった細い体に刻まれていた。
オルドはなかなか収まらない天候にため息をつくと彼女の元までやってきて背を向けベッドに腰かけた。
彼の方にマットが沈んだ。
「気分はどうだ」
「だいぶ落ち着きました」
「そうか」
ティエナは自分の声がさっきよりもはっきりと聞こえ、貧血には変わりないが眠たさは感じなかった。
「オルド様はお加減はいかがですか」
「俺は平気だ」
「…今日見たことは忘れます」
古傷のことを言ったつもりだったのに彼は勘違いしたらしい。
「紅葉をか?」
「いえ…その…」
「忘れるな」
言葉を濁すと振り向いて強くそう言われた。
「いえ、違います…その傷のことで」
「ああ、これか」
適当に指差すと彼は理解したのか自身の体に視線を落とした。
そのときにあんなに滴っていた黒髪がすっかり乾いているのがわかり、時間の経過を物語っていた。
「リリアナ様とケイディス様は無事にお戻りになられたでしょうか…」
2人もきっと心配しているに違いないし、ちゃんと戻れているかもわからない。
自分たちはこの山小屋があって助かったけど。
「おまえは…話がすぐに変わるな」
「そうでしょうか?」
「傷のことは聞かないのか」
「オルド様も私の傷は黙ってくださっています」
あなたは何を言うのか、と言い返すと沈黙がおりた。
オルドは一瞬開きかけた口を閉じ、口角をわずかに上げた。
「お互い様だな」
「…そうですね」
ティエナも短く笑って沈黙を破った。
「この隠れ家と俺の傷には関係がある」
それ以上は聞かない方がいいと思って耳を塞ぎたかったが毛布が邪魔でできなかった。
待って待って、心の準備が…
オルドの話はどんどんと続く。
「俺が正妃の子供ではないことは知っているな」
初耳だったためごめんなさい、とティエナは思った。
「しかも陛下に似ることなく、違う女によく似た容姿を持って生まれた」
絶対暗い話だこの後、と唾を飲み込んだ。
「弟は陛下によく似ている可愛い子供だったが、俺はそうではなかったらしい」
まあ俺の昔話に付き合え、いつ寝てもいいから、と両ひざに肘を乗せて猫背になった彼は背中を向けたまま話し始めた。



