それからどれぐらい経っただろうか。

頬を叩かれ目が覚めた。


「大丈夫か!」

「う、ん…」


瞼を開けると目の前に雨に濡れたオルドの顔があった。

でも目に入る水が邪魔ですぐに閉じた。


「俺の声が聞こえるか」


それに頷く。


「俺が誰かわかるか」


それにも頷いた。

雨がやけに邪魔だった。


「よく聞いてくれ。落下したときにちょうどこの大木と茂みがクッションになり打撲は免れたが…おまえは出血が酷い。応急処置はしたが危険な状態だ」


どこが出血してるんだろう…

そう思いつつ目に入る水が邪魔で拭うと、手が真っ赤に染まった。


「え…」

「それは雨で濡れたもので今はほとんど血は止まっている。幸い傷口は浅かったんだ」


いいか、とオルドが唾を飲み込んだのがわかった。


「これからおまえを山小屋に運ぶ。また出血しないように気をつけるが、見えないところに怪我を負っていないとも限らない。痛いところがあったら言ってくれ」

「は、い…」


ティエナの血で濡れた手を握りながら目を見てそう言った彼。

顔面蒼白な彼の方が心配だった。

握っている手もこらえているのか、それでも震えていた。


「オルド様は…どこかお怪我は…」

「俺は平気だ」


彼の髪から滴った雨が頬に落ちてきた。


「よか、った…」


そう言うと彼の闇色の目が細められた。


「おまえは…人のことばかりなんだな」


毛布に包んだ私を抱えた彼はゆっくりと歩き出した。

大木の雨宿りから出ると雨が打ち付けてきて毛布が濡れ始めた。


「あと少しだ」


きっと重いだろうに、と思ったけど、その表情は毛布で見えない。

毛布の隙間から指だけをなんとか出すとちょうど彼の腕に当たった。

ピコピコと動かすと彼が笑ったのがわかった。


「ふっ…なんだそれは」


わからない。

でも、元気づけたかった。

きっと彼は後悔している。

自分の判断でこんなことになって、怪我人も出て、大勢を心配させていることに。


でも、楽しかった。

綺麗だった。

後悔以上に得るものがあったということを知ってもらいたかった。


「着いたぞ」


着いた山小屋の中は埃っぽかった。