「リリアナ様も親切な方ですよ。今の私だけを見てくださっています」


「…そうかしら」


無邪気にそんなことを言うあたしの侍女。


「ーー…」

「何かおっしゃいましたか?」

「いいえ…ところで、あなたが育てたら1週間で咲く、ですって?」

「え、あ…」

「あなた手抜きしてるでしょ!」


心情を悟られたくなくて誤魔化すために怒った。


「あたしに喧嘩売ってるの?」

「申し訳ございません…」

「言っておくけど、小ぶりのイエローコリンのことは知ってるから」

「そうでしたか」


大好きだった。


「…あたしも好きだったわよ。リトルムーン」


小さい月のようなあの黄色い花が。

他のイエローコリンとは違う大きさなのにちゃんと花が咲いている奇跡。


「最近全く出回らくなったのは気づいてた」

「はい…」

「でも、1人だけの手で育てられてたなんて知らなかった」


実は調べて全て知っていた。

あの花をあたしだけの物にしたくなった。

最初は友達が欲しかっただけ。

親の愛情を知らない、あたしに誠実で優秀な女の子。

スー・ラングが薦めてきたティエナ・メリストについて調べてわかってきた事実。

とんだ掘り出し物だった。

最初はそう思っていた。


握った彼女の手は温かかった。


「リトルムーン、また見たいわ」

「は、はい…!」


でも、今はそうは思わない。

掘り出し物にしてはもったいないぐらいいい子で、あたしにはもったいないぐらい人間としてできた子。

あたしを優しく感じていたのはきっとあたしの欲望を勘違いしただけよ。

ペットを甘やかせて愛でていたに過ぎない。


だからケイドお兄様に叱られてしまったのだ。

あたしたちの距離がおかしい、と。

あのとき故意か他意かわからないようなケイドお兄様の言葉に肝を冷やしたのはティエナだけではなかった。





"…ごめんなさい。"





あたしが濁した謝罪の言葉。

自分の身勝手さに泣きそうになった。