体力がついてきたころ、初めてイエローコリンを知った。
綺麗な黄色い花。
その特殊性を教えてもらい私が育ててみると開花するまでの期間が短かった。
月光にあて、水をあげ、丹精込めて毎日コツコツと。
そんな私を手放しに両親は褒めた。
もっともっと育てなさい。
そうすれば欲しいものがたくさん手に入るから。
でも私は何も欲しがらなかった。
お金も。
お菓子も。
洋服も。
可愛げのない子供だったと思う。
その欲しがる、という気持ちがよくわからなかったのだ。
あのころは物の価値をよく理解していなかった。
推定で、私が初めてこの家に来たときの年は8歳。
字も読めない子供だったがすぐに覚え、読み書きをマスターし、商人との交渉もよくしていた。
「これぐらいでどうですか」
母親から言われていた金額を言うと商人は最初は渋る。
「バカ言うなよ嬢ちゃん。そりゃなんでも高すぎるぜ」
周囲のイエローコリンを育てているどこよりも破格の値段だった。
「でもたくさん売れます」
「花なんか見た目は変わらねえじゃねえか」
「量のことです」
そこで、過去の領収書をちらつかせる。
「同じ量を2か月前にも売りました」
「こりゃたまげた…」
普通ならその3倍は次出荷するまでかかる。
こんなに頻繁に売っているところは他にない。
うちはコスパのよさが売りだった。
「どうすっかな…」
頭を抱える商人。
以前は品質も態度も悪く評判が悪いと聞いていた農家。
最近の口コミを聞いて試しに足を運ぶとイエローコリンを育てている少女が交渉の相手をしてくれる。
「贔屓にするかどうかはあなた次第ですが、こちらも定員があります」
と、他にも買い手はいるからこちらはあなたじゃなくても困らないし早いもの勝ちだ、ということをにおわせると商人は焦り出す。
「ま、待ってくれ…」
そこに別の商人が街に到着したことが伝わるともう早い。
「わかった。それで買おう」
「ありがとうございます」
そうして出荷されていく無数のイエローコリンと、貯まるお金。
領収書を母親に渡すとお腹を蹴られた。
床に転がる私の体。
「あの様子じゃもっと高値をつけられたはずよ」
「でも、領収書の値段が…」
「ふん。これでいいでしょ」
と、別の領収書が目の前の床に落ちてきた。
さっきよりもだいぶ違う金額。
「欲がないんだから、やっぱりこうするのがいいわね」
虚偽の領収書を見せてはだんだんと高値になる私のイエローコリン。
本当は2か月毎じゃない。
1週間毎に咲くイエローコリンたち。
「もう、頑張らなくていいんだよ…」
そう話しかけてもどんどんと咲いていく。
期間が短いから小ぶりのイエローコリンになるけど、それが可愛いと他の街では評判がよく、ブランド化していった私のイエローコリン。
イエローコリンは育てる人の心に反応して咲くと言われていた。
育てる人がイエローコリンのために生活し生長することで咲く花。
だから水は植えた人があげ、話しかけ、丹精込めて地道に育てあげる。
農薬もご法度で、害虫駆除は手作業。
熱くても寒くても建物の中ではなぜか育たないため外で育てなければならず過酷な職業だ。
まるで我が子のように愛情を注いで育てることで咲いてくれる花。
邪な心を持つ人や面倒くさがる人にはその黄色い顔を見せてくれない気難しい花。
でも。
私がいくら咲くな、咲くな、と願っても咲く健気なイエローコリン。
「ごめんなさい…!」
助けてくれているんだ、と当時は子供がよく考えるようなファンタジックな妄想を抱いていた。
私がこれ以上殴られたり蹴られたりしないようにイエローコリンたちは花を咲かせるのだ、と。
両親はもうイエローコリンを咲かせられないことがわかっていた。
心がけがれてしまったのだ。
「…ほら、立ち上がれるかい」
母親が市場に買い物に行くまで床に倒れていると、父親によって立たされた。
母親の手前厳しいふりをしているが、父親はこうして助けてくれた。
でも、善人だったらどれぐらいマシだっただろうか。
「お父さんに傷をよく見せなさい」
そう言いながら服に指をかけるいやらしい目。
父親は次第に女として私を見るようになっていたのだ。



