私はフロウ地区で育った。

生まれはわからない。

私は元々1人の孤児だったのだ。


気づけばフロウ地区にある1軒の家の中にいた。

あまり覚えていないけど、確か山の中をさ迷っていた気がする。

誰かから逃げるために…

いや、その誰か、も幻影だったのかもしれなかった。

そもそもなぜ逃げていたのかわからなかった。


混乱した頭で天井を見上げていると声がした。

男女の声。


ついに魔が差したのか。

おかしいだろ。


男は苛ついているようだった。


そんな余裕はない。

今すぐ捨ててこい。


言葉をよく理解していなかったため、喧嘩しているということしかわからなかった。

その喧嘩は水の中で聞いているような感覚だった。

声が揺れ、聞こえづらい。


あなたに何がわかるの。

子供が生まれない女に価値はない。

そんなこと言わないで。


私もなんだか悲しくなった。


そして、いつの間にか意識を手放していて再び起きた頃には喧嘩は収まっていた。


なんてことだ。

花が一気に咲いたぞ。

あの子が来たからよ。

あの子は幸運の子なんだわ。


ぼやける視界の中、脇から覗き込んできた2つの顔。


「今日からあなたはうちの子よ」