「その手は守るための手だ」


その力強い口調にケイディスはハッとした。


「国民、家族、友人…それらを天秤にかけたとき、やはり自分と比べ重みが違う。本来は天秤ではかることのできるものではないが、俺たちが掴みたい、離したくない、守りたい、と思う気持ちがそれらの重さとなる」


それに、と続けた。


「俺は何があってもおまえを守るぞ」


何があっても自分を犠牲にする覚悟はある、とオルドは言いたいのだろう、とティエナは思った。


「いやあ…参った」


と、言いながら書類を集め始めたケイディスはティエナが集めていた書類も持つと机の上に置いた。

ティエナも立ち上がり横にどいた。

ちらりと見るとオルドは真っすぐとケイディスを見ていた。


「わかったよ、ごめん。弱気になってた」

「会うのは久々だしな」

「それ関係ないよ」

「そうか?」

「そうだよ」


と笑い合う2人を眺めていると、リリアナに呼ばれた。


「ティエナ、行くわよ」

「あ、はい!」

「お兄様方、あたしたちはそろそろお暇するわ。何か言うことはある?」


歩いて行くリリアナよりも先にドアの手前に立つと、彼女は振り返ってそう聞いた。


「…レモンの砂糖漬けがほしい」


ぼそっと言った声はちゃんと耳に届いた。


「後でお持ちいたします」

「あ、僕の分も」


と、気まずそうに言ったケイディスには笑ってみせた。


「かしこまりました」


そしてドアを開け部屋を出て歩いているとリリアナに言われた。


「なんか変わったわね」

「そうでしょうか?」


気のせいです、と誤魔化した。

リリアナの部屋につき着替えを終わらせると、話したいことがある、とリリアナを座らせ、お茶を用意した。

レモンの砂糖漬けは昼終わりのお茶の時間の方がいいだろう、と思いながら。


なぜだか、今話したいと思ったのだ。

履歴書の下半分のことについてを。