妖精の涙【完】



「良くも悪くも君の無邪気さは君の個性だよ。僕は好きだな」

「ですが…」


心はまだどんよりと曇っていた。

許されるのはここだけの話で、1歩外に出ればたちまちいろんな人の目に晒される。

確かにスパルタ指導を受けたけど、1か月だけでそれは付け焼刃に過ぎない。

一朝一夕で身につくようなスキルでもないのだ。

それにお手本がいない。


もう学ぶ術がない。


「…」

「こんなことになるはずじゃなかったのに」


隣でリリアナが頭を引き寄せて慰めてくれているがあまり効果はなかった。

この手だっていつ離されるかわからない。

愛想を尽かされたらどうすればいいかわからない。


そう思い唇をぎゅっと噛み締めていると、いきなりバサバサっと何かが落ちる大きな音がした。

驚いて見ると、床に散らばる無数の紙と、卓上で書類に埋もれる黒い頭。

あったはずの書類の山が1つ無くなっていた。


「あーあ、オルド何やってるの」


ほら起きて、とケイディスが立ち上がり彼の肩を揺するとガバっと黒い頭が起き上がった。

寝ぼけているのか、何が起きたのか理解していない様子だった。


「…なんだこれは」

「自分でやったんでしょ?」


オルドは目の前に広がる書類を見ながら自分で引き起こした惨劇を見て肘をついて額に拳をあてた。


「気づかなかった」

「うとうとしてるなあ、とは思ってたけど」


それを見てそろそろと立ち上がり恐る恐る書類をかき集めていると、正面にケイディスがしゃがんできてビクッとしてしまった。

すると、頭上からため息が聞こえた。


「なんでビクビクしてるの?」

「…いえ」

「君は何も悪いことしてないのに」


と、いきなり頭を大きな手のひらで撫でられてまたビックリしてしまったが、ただの優しい手のひらだった。


「むしろ僕たちの方が悪者だよ」

「え…?」


思わず顔を上げると、自嘲気味に笑うケイディスがいた。


「この手で何人の命を奪ったかわからない…この手は奪う手でもあるんだ」

「…それは違う」


撫でるのをやめ自身の手のひらを悲し気に見つめるケイディスに、突然ティエナの背後に立ったオルドが声をかけた。