妖精の涙【完】



「イエローコリンをあげました」


花瓶にはまだまだ元気に咲いている枯れたはずの花があり混乱しながら言った。

ラファは微笑みながら花を見つめたままじっと動かない。

この中では1番自由な人だ、と思った。


「あなたあげてばっかりね」


そんなことを言われ一瞬ぽかんとしてしまった。

慌てて口を閉じる。

そんなことを言われても成り行きだから仕方ないため何も言えなかった。


「僕、何ももらってない」

「そんなの知らないわよ」


リリアナはケイディスには毒舌だな、と苦笑しつつ、手招きされたため彼女の隣に座ると目の前にいるケイディスがきょとんとした。

…何かおかしいことでもしただろうか。


「君ってなんかやっぱり凄いね」

「はい…?」

「普通だったら座るっていう意味に捉えないと思う」

「おかしなこと言わないで」


と、リリアナは不機嫌そうに言い、来たときにケイディスが用意した紅茶をすすった。


「あたしがそう指図したから座ったんじゃない」

「大物か頭が足りていないかのどちらだろう、と思って」

「…」


自分が座ったのが原因でなぜか空気が悪くなってしまい立ち上がろうとするとリリアナに腕を取られ立てず、浮かせた腰をまた落ち着かせた。

怒っているようだった。


「ケイドお兄様のそういうところが嫌い」

「ちゃんと教えてあげればいいのに。君は子供みたいだよ、って」


子供…?

どういう意味だろう。


「普通の人ならこの状況では座らず壁際に立ち、手招きされたら何か持って来てほしいなりの要求を聞くために頭を下げるものだよ。座ることはまずしない。そんな図々しい侍女はどこにもいないよ」


年相応なんだねやっぱり、と無表情で言われ本当に何も言えなくなってしまった。

確かにそうだ。

この場にいる人を知り合いか何かだと勘違いしている。

相手は王族なのに鼻につくような態度に見えていても不思議じゃない。

よく考えずに親しくし過ぎていた。


「お兄様!やり過ぎよ。怖がってるじゃない」


俯いてきていた自分の侍女の頭を撫でながらリリアナが庇った。

でも、本当に知らない人が見たらどれだけ頭が高い侍女に見えるんだろう。

庶民のくせに気安い態度を取るなんて…


「申し訳、ございません…」


悲しみと恐怖に唇が震えた。

リリアナの格を下げてしまうなんてあってはならないことだ…

こんなにも魅力的な方なのに。


「というのは世間的な話さ」


俯いていた頭上から明るい声が聞こえ恐る恐る顔を上げると、さっきまでのケイディスの突き刺さるような目つきは影を潜め、代わりに微笑みが見えた。