ぼーっとそんなことを考えていると、リリアナがドアをノックした。


「あたしよ」


それでいいのか、と思いつつ先頭に立ちドアを開けると彼女が先に入った。


「挨拶が遅れてごめんなさい。おかえりなさい、お兄様方」

「謝るくらいならちゃんと来なよ」

「忙しかったのよ」


部屋に入ると執務室なのか、壁一面は本で埋め尽くされ、奥にある机の上には書類の山と黒い頭が見えていた。

その前にあるソファーではケイディスがお茶を飲んでおり、窓際にはフードを被っていないラファがあのイエローコリンを添えた花瓶を見下ろしていた。

リリアナは慣れた様子でケイディスの向かい側に座った。


「…失礼いたします」


なんなんだろう、この場違い感。

部屋に満ちた神々しさにたじろいで、部屋の隅に突っ立っているのがやっとだった。

綺麗な人ばかり…

庶民には少々毒気がある。


「僕たちがいない間、どうだった?」

「別に変らないわよ。お父様のこと以外は」

「ティエナの紹介はないの?」

「もう知ってるくせに」

「オルドたちは知らないだろうから」


と、自分の名前が聞こえてきて反射的に反応したのか、黒い頭が書類の向こうで動いて闇色の瞳がこちらを見た。


「…レモンの砂糖漬け」


と、呟きながらびっくりしたようにティエナを見つけてその目を見開いた。


「レモン?」


と、ケイディスが復唱したがオルドには聞こえていなかった。


「昨日ティエナが廊下でばったり会ったオルドお兄様に知らないでレモンの砂糖漬けをあげたのよ」

「何その展開」


おもしろ、とケイディスが笑ったのが見えた。


「改めて紹介するわ。彼女はティエナ・メリスト。フロウ地区出身であたしの侍女になったからよろしくね」

「初めまして…いえ、よろしくお願いいたします」


頭を下げながら、全然初めましてじゃない、と言い直した。

つい癖で言ってしまった。


「改めて、僕がケイディス。親しい人にはケイドって呼ぶ人もいるよ。それで、あの黒髪がオルドで銀髪がラファ」


頭を上げるとケイディスがわざわざ紹介してくれたため恐縮した。

スーからの話だけではわからない、生の彼らを見て直に話せるなんて普通ではありえないことだ。


「ラファはもう見かけたことがあるわよね」

「いえ…先ほど会いました」

「え?」


それ本当?と言いたそうにリリアナが眉をひそめたため頷いた。