聞かれて同然な質問だった。


「リリアナ様の侍女でございます」

「名前…」


そうじゃない、と言いたそうな顔だった。


「ティエナ・メリストでございます」

「ティエナ…」


私の名前のどこが面白いのか、そう呟きながら微笑んでいた。


「ティエナ、ありがとう」

「はい?」

「喜んでる」


と、花瓶で咲くイエローコリンを見ながら言うため、花が喜んでいる、と言いたいのだと思った。


「どういたしまして…?」

「それ、ちょうだい」


と、持っているバケツを指差して真っすぐに目を見てきた。

紫色の目が向けられ、断る理由もないため渡すと満足そうだった。


「いかがなさるんですか?」


枯れた花なんて。


「まだ死んでない」


と、むっとしたような声で言うとスタスタとどこかへ歩いて行ってしまった。


その後ろ姿を見ながら、あの容姿なら隠すのも当然かと思いつつ王子たちとどのような関係なのか気になった。

言葉もカタコトだし、異国の人なのかもしれないと思いながらリリアナの元に戻るとイエローコリンに水をあげておいた、と自信気に言われた。


「ありがとうございます」

「いいこと?これじゃあ比較にならないんだから!今日はイレギュラーだから全部イレギュラーにしてみたわ!」


そうだった。

リリアナと咲くまでの期間を比較しているのだった。


「明日からはそれぞれ作業をしましょう」

「当たり前よ!」


意地でも2人でやっているのにお互いの手は借りない、という方針で進めたいらしい。

水やりについてを聞いたときにため息をついてしまったことを根に持っているのだろうか。


「それではそろそろお時間ですので支度してから参りましょう」


着替えやら髪型やらを整えて部屋を出るとリリアナはティエナの半歩前を歩き出した。


「場所覚えるのよ、今後も行くことになるんだし」

「はい」


どのドアも似たような造りで見分けがあまりつかないが、ところどころに騎士が見張りでついている。

そういうところは近寄らないようにしていたが、そのうちのどれかの部屋が王子の部屋だろう、というのはだいたい予想がつく。

が、予想に反して入り口に誰もいない部屋だった。


「護衛の方がいませんが…」

「大丈夫よ、別の部屋についてるふりしてちゃんと護衛してるから。カモフラージュみたいなものね。オルドお兄様が護衛がいると落ち着かないというのも理由の1つだけど」


なるほど、と頷いた。

カモフラージュか。

だからドアの見わけがつかないし、似たような場所をグルグルと回っている気になってしまうのだ。