太陽が昇る前の早朝にリリアナの部屋のバルコニーに行きプランターを回収した。
彼女は寝室にいるため恐らくまだ起きていない。
別に日光に当たっても芽が出ないわけではない。
ただ、育ちが遅くなるだけだ。
起こすまで時間があるな、と思い王宮内の中庭に行くと噴水があった。
実はここに来るのは初めてで、まだ把握しきれていない。
そのうち落ち葉掃きなんかもしなければいけなくなるだろう。
「気持ちいい…」
風がそよそよと吹いていて穏やかな朝だった。
今は秋で、からっとした空気が当たりを包み込んでいる。
「あ、奇遇だね」
この声は、と思いつつ振り返るとケイディスがこちらに向かって歩いてきていた。
金髪が朝日を受けて黄金に輝いて見える。
彼は隣まで来ると顔を覗き込んできた。
「少し痩せた?」
「わかりません」
「なんだかつれないなあ」
「そうでしょうか」
今帰ってきたばかりなのか、遠くで騎士が彼を待っているようだった。
こちらの様子を窺っている。
「困ってますよ、あの人」
「大丈夫だよ」
「早く行ってあげてください」
短いやり取りで警戒しているのがわかったのか、彼は大袈裟に肩をすくめて踵を返した。
「じゃあ、また」
と、手を振ってあっさりいなくなった。
朝からいらぬ緊張をした、と思いながらリリアナの部屋に戻ると彼女は怒っていた。
「なんで起こしてくれなかったのよ!あたしだってイエローコリンの世話やりたいのに!」
「申し訳ございません。時間が時間でしたので」
「そんなの二度寝すれば済む話よ」
「それではこれからはそのようにいたします」
二度寝するのか、と驚きつつそう約束して朝食を用意した。
彼女は1人で食べたくないから、と一緒に食べることを許可してくれているため、こうして向かい合っていつも食事をしている。
そのせいか、栄養バランスに偏りは無いか、量は多すぎないか、と気に掛けるようになった。
なぜかいつもヘルシーな料理に走りがちで、リリアナが不満をもたないように肉や魚介類もきちんと採れるように作っている。
動物タンパク質は人間にとって大事なエネルギー源だ。
「訪問時間は10時となっております」
食後の紅茶を飲みながら王子たちに会う時間を伝えるとリリアナは頷いた。
「それじゃあまだ時間はあるわね」
「そうですね」
「あなたはイエローコリンの世話をしてきなさい」
廊下のイエローコリンのことを言っているのか、と思いワゴンを片付け、じょうろを持ちうろついていると、枯れてしまった花を見つけた。
そして花瓶ごと持とうとしたがやめた。
高そうな花瓶だから割ったらたいへんだ。
バケツを用意してそこに花と花瓶の中の水を移し持ち歩いていると、フードの男が別のイエローコリンを眺めているのがわかった。
声をかけづらいため無視して進もうとすると、手前まで来たときふいに私を振り返った。
それで顔がよく見えてしまった。
真っ白な肌に銀髪と紫色の目、という現実離れした容姿。
その風貌に息を飲んでいると、彼は首をかしげた。
「…君」
何を言われるんだろう、と身構えた。
「誰…?」



