それから数週間後。

陛下が体調を崩された。

城内が慌ただしくなり、統率が取れていないとはこういうことか、と思いつつ騒々しい廊下を覗くために半開きにしたドアを閉めリリアナに振り返った。


「大丈夫かしら…」


窓の外を眺めながらぽつりと漏らす彼女には元気がなかった。

陛下にお会いしたことはないが、ご高齢なのは確かで、今回は急に倒れてそのまま頭を打ち付けてしまい大事になってしまった。

しばらくは意識が混濁していたらしいが今は普通に話しているという。


「これまでにこのようなことは?」

「いいえ、無かったはず…と思いたいけど、あたしたちに伝わってないだけかもしれない」


つまり、前兆がなかったとは言いにくいということだ。


「もう、そろそろなのかもしれないわね…」

「元気を出してください。リリアナ様」


こんなときにしょげてどうする、と声をかけるとふっと軽く笑われた。


「あなたに元気づけられるなんて」


失礼な、と思った。


「でもありがとう」


笑顔を見せてくれてほっとした。

彼女はもっとサバサバしていて元気で快活な方がお似合いだ。

自分のような根暗になってはその明るい性格に雲がかかってしまう。


「なんだかんだでやっていなかったけど、イエローコリンでも植える?」

「そうしましょう!」


パッと表情が変わったことに自分で気づきながらも無視してプランターなどをバルコニーに用意し種を植えた。

リリアナと自分の分、それぞれ10ずつ植えるというなかなかハードな作業だった。


「ティエナ、頬に土が付いてるわよ」

「ありがとうございます」


拭ってくれた彼女にお礼を言い、道具や土を片付けプランターを日光の当たらないところに保管した。


「夜になったら出しましょう」

「ええ」


今は昼下がり。

そう言えば昼食の時刻を過ぎていた。


「今すぐ昼食をお持ちいたします」

「そうね、忘れてたわ」


2人して夢中になっていたのか何も飲まずに作業をしていたことに気づき、まだまだだな、と思った。

そうして会話もそこそこに食べ終え紅茶を飲んでいると、ドアがノックされた。

ドアを開けると騎士がオルドの到着を告げた。

遠方に視察をしに行っていた突然のお帰りに困惑した。


「オルド様がお戻りになられました」

「そう…それじゃあケイドお兄様もすぐに戻ることになりそうね」


ケイディスとはあれ以来会っていない。

というのも、あの日はたまたま帰っていただけですぐにどこかに出発して行ったのだ。

2人の王子が召喚されるとなると、城の中はもっと騒々しくなるだろう。


「挨拶をしに行く?」

「なぜ私に聞くのですか?」

「オルドお兄様は真面目だから、会いに行ったところで仕事の邪魔になるだけだと思って…いえ、ケイドお兄様も帰ってきたらにするわ」


と言い残してピアノのレッスンに行ってしまった。

1人残され、食器の片付けをしてワゴンを押しながら出会い頭にぶつからないように注意して廊下を歩いた。


しかし、やはり職業病か。

廊下に飾られているイエローコリンを見ながら満足する。

暇な時間を利用してイエローコリンの世話をしているのだ。

花瓶の水を替え、枯れた葉を取るだけの作業。

世話をやらされている、と過言ではないような感じの侍女に申し出ると快くその座を明け渡してくれた。